360 栂(ツガ、トガ)の木をご存知でしょうか? “広島県廿日市市の亀山神社”
20160617
太宰府地名研究会(神社考古学研究班) 古川 清久
「栂」と書いて「ツガ」とも「トガ」とも呼ばれる木があります。
ツガ 【栂】 [その他の名称]トガ
マツ科ツガ属の常緑針葉樹。 学名:Tsuga sicboldii Carr.
天然分布は本州南部から四国、九州を経て屋久島に至る。
辺心材の境界は明瞭で、心材は淡褐色で、辺材は淡色。
木質は針葉樹の内では重硬。木理は概ね通直で、木肌は粗い。乾燥は容易。割裂性は大きい。
気乾比重 : 0.51
柱、長押、鴨居、敷居などの建築材、器具材、梱包材、パルプ材など。
近縁種にコメツガやカナダツガなどがある。
「栂」と言えば、直ぐに宮崎県椎葉村の栂尾神楽が頭に浮かんで来ます。
33番神楽を続けることが出来る集落は減り続けていますが、今でも11月22日の夕方から翌朝の10時前後までの16時間延々と夜通しで舞われるのです。
私は18年目に入りますが、地名研究会は毎年メンバーが入れ替わりつつも10人から15人が見学に訪れているのです。ただ、現地の栂尾神社にはいくら探しても栂の木が見当たらず、一度本格的な栂を見たいと考えていました。
勿論、以前にも佐賀県神埼市の仁比山神社の境内でかなりの大木を見掛けたことがあるのですが、他の木と重なり暗かったことから木の全貌が把握できずあまり強い印象は残っていませんでした。
ところが、今回の尾道~福山への神社探訪で広島県廿日市市の亀山神社を訪れ、22mの堂々たる栂の大木に遭遇したのでした。
亀山神社という社名から、直ぐに宇佐八幡宮系もしくはそのものの分社であることは一目で分かります。
しかも、この社殿の配置からは、かつては、この神社よりも金毘羅神社が格上であっただろう事も一目です。
岩国を始めとして広島県内にも多くの亀山神社(亀山は現在の宇佐八幡宮の鎮座地)がある事から、この一連の神社であろうことも想定できそうです。
では、参道左に立つ栂の大木をご覧いただきましょう。
亀山神社と金毘羅神社の関係は別として、今回は、神社そのものには関心がないため、栂に関わる話に
変えますが、気になるのは「栂」を「ツガ」と呼ぶか「トガ」と呼ぶかの境界線がどこにあるのかです。
これは、U音とO音の入れ替わり現象として理解していますが、九州の大半では、通常、O音で呼ばれるものがU音で表現されているものに数多く遭遇するのです。
例えば、「ホウズキ」を「フウズキ」と呼んだり、「オオゴトをしでかした」を「ウーゴトしでかした」と表現するような例です。
ただし、大分県の瀬戸内海に面した海岸部ではこの傾向は認められないようです。
栂を「ツガ」と呼ぶか「トガ」と呼ぶかもこの問題の延長上に存在しているものと考えており、九州王朝論者の立場から言えば、古代九州王朝の標準語だったものの痕跡とも考えており、「ツガ」と呼ばれるエリアや事象に関しては見過ごせないのです(神様の名前にも関係してきますので)。
勿論、瀬戸内海沿岸部ではこの傾向は見いだせないとしている事から、そこは岩国ではないのか?と言われそうですが、山奥とか寺社などの格式の高い所では旧来の慣行が凍結される場合があるのです。
一部ですが、福岡教育大学の杉村孝夫教授の研究から
(5.2)「 オ列長音の開合」に対応する音声
これは,室町末期の京都語の開合に対応するもので,現在の九州方言では(むろん高年層で)開音は[o:] と発音され,合音は[u:] と発音される。
[au] に由来する開音は[o:] 例えば [to:ʥi](湯治)
[ou] に由来する合音は[u:] 例えば [ɸu:ʣuki](ほおずき)[eu] は[iu] を経て[ju:] となる。例えば[kju:](今日)「ふうずき」と,実際に文字で書かれることもある。次の写真は,今から13 年ほど前に佐賀県の三瀬村の売店で撮影したものである。…
一般的には、九州方言のレベルでしか考えられていないのですが、とりあえず、海岸部に近い瀬戸内海領域の広島県廿日市市においても「ツガ」と呼ばれる事を確認できたのでした。