505 “うわばみ“ の謎が解けた?
20170715(20100409)再編集
太宰府地名研究会(神社考古学研究班) 古川 清久
蟒 蛇(ウワバミ) “うわばみ”の謎が解けた?
古典落語に“うわばみ”(大蛇)が出てくる噺があります。「夏の医者」、「そば清」…といったものですが、皆さんも、多少は人を丸呑み込みする大蛇のことは聞かれたことがあるでしょう。ただ、“うわばみ”を、なぜ“うわばみ”というのか?ということについては気になり続けていました。
噺のほうも謎は謎だったらしく、「昔、“うわ”というものがおったが…それが“はむ”のじゃな…」などと“うわばみ”の語源を解説するものまであります。
写真は朝倉郡筑前町の東端に鎮座する大貴巳神社
蟒 蛇(ウワバミ) “うわばみ”の謎が解けた?
古典落語に“うわばみ”(大蛇)が出てくる噺があります。「夏の医者」、「そば清」…といったものですが、皆さんも、多少は人を丸呑み込みする大蛇のことは聞かれたことがあるでしょう。ただ、“うわばみ”を、なぜ“うわばみ”というのか?ということについては気になり続けていました。
噺のほうも謎は謎だったらしく、「昔、“うわ”というものがおったが…それが“はむ”のじゃな…」などと“うわばみ”の語源を解説するものまであります。
私自身も、実際、“食む(はむ)”という言葉に引きずられ、最後には、“うわ”とは何か?とまで考えていたのですが、結局は分らずじまいで投げ出していました。
ところが、最近になって、ようやくこれが解決したのです。きっかけは永井正範氏の発表テーマが「八女と矢部」になったことでした。
氏は報告の骨子としてM音とB音の入れ替わり現象を取り上げておられます。
恐らく、八女と矢部が実は全く同じものなのだと説明されることになると思うのですが、この現象は比較的知られています。再度考え直すとこれまで悩んでいた“うわばみ”の謎がなんとか解けるのです。
言語学の世界で、今の日本語のH音が、古くはF音、さらに古くはP音で発音されていたという話は有名です。沖縄の先島諸島では花が“ぱな”と呼ばれることでも分かります。
まず、ヘビが東北地方の一部(岩手、青森の古老の慣用)では“ファビ”とf音で発音されます。また、沖縄のハブ(ファブ)にf音が残っていることは、ヘビが、かつては、ファビもしくはファブに近い音で発音されていたことを容易に想像させます。
では、ここで、ファビ、ファブのB音をM音に置き換えてみましょう。きれいにファミ、ファムになるのです。問題として残ったのはウワですが、一応、南島から九州西岸部で顕著なO音とU音の入れ替わり現象と考え(オオゴト→ウウゴト)、大きいの意味のオオ、がウウ→ウワ、ウハと転化したものとして理解しています。これでウワバミとは大きな蛇のことということでなんとか収まったのです。
と、ここまで話を進めたところ、永井氏から、そもそも、「ヘビ」の古語として「ヘミ」(広辞苑)があるのだから、そんなにまわりくどい説明をする必要はないでしょう。単にM音とB音の入れ替わり現象だけで説明は可能なのです。とのコメントを貰いました。
「ヘミ」の古語がH音の古形としてのF音に、M音をB音に変えれば、“うわばみ”の「バミ」であることが分かるのです。実はなんでもないことでした。
では、M音とB音はどちらが古い形かと問われれば、簡単ではありません。
「へみ」が「へび」の古語とされていることから「ヘミ」が古く、従って、八女が古い地名であり、五條家が進出した(九州の南から入った)矢部と呼ばれたのでしょうか?
まず、そうとも言えないことは、辺境も辺境の沖縄の八重山にまで「ハブ」が流通していることでも反証となりそうです。
また、「さむらい」の古語が「さぶらい」とされていることもあり、この入れ替わり現象がそれほど多くなく気まぐれであることから、今のところ、八女の一部であった矢部が、いつの時代にか矢部と呼ばれるようになったように思えるのですが、あまりあせらずに八女と矢部にはこの問題が関係しているのではないか?とまでしておきたいと思います。
へみ【蛇】
へびの古称。仏足石歌「四つの―五つのものの集まれる穢き身なれば」。(和名抄(19))
うわ・ばみ(ウハ・・)【蟒蛇】
(ハミはヘミ・ヘビと同源)
① 大蛇(だいじゃ)。特に熱帯産のニシキヘビ・王蛇などを指す。<日葡>
② 大酒飲みの喩え。
大巳貴神社(筑前町)